一なる騎士

 うながされるままに、リュイスはいまや迷いのない瞳をサーナに向けた。

「すべてが終わり落ち着くところに落ち着いたら、そのときは結婚してくれないか?」

「あっ」

 サーナの青灰色の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
 きっとずっと待っていた。
 そう言ってくれることを。

「サーナ、そっ、そんなにいやだったか」

 さすがに、あわてたリュイスが声をあげる。
 そんな、泣かれるほどいやがられるとは予想していなかった。
 うろたえるリュイス。

 けれど、それ以上にサーナはうろたえていた。
 自分が泣いているのにすら気づいてはいない。

「え? いえ、ちがっ、ちがいます」

「それでは、なぜ泣く?」

「え?」

 頬に手を当てて濡れた感触に、サーナはやっと自分が泣いていることに気づいた。

「私、私、うれしくて……」

「うれしい?」

 そこで、ようやくリュイスは彼女の涙の意味を悟った。

「そうか」

 ふわりときれいに微笑むリュイスに、サーナは目を奪われた。
 今だけは、彼にいつもまとわりついていた憂いの影はない。

 晴れ晴れとした、心からの笑顔。

 四年前のあの日、セラスヴァティー姫が誕生した日からずっとサーナが見たいと願っていた顔だった。

「では、承知してくれるな」

「はい」

 消え入りそうな声で答えると、サーナは今更ながら真っ赤になってうつむいた。
 いまだ世界は、白い朝靄の中に閉ざされている。
 若い二人を祝福するのは幼い姫君のあどけない笑顔だけだったが、それでも今の彼らは幸せだった。



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