一なる騎士
 とたん、リュイスは目を瞠った。

 白い産着に包まれた赤子は、まだ生まれたばかりだというのに、その美しさは一目瞭然だった。薔薇の花びらのような唇。すっきりと通った鼻筋。小さな形のよい頭はすでに髪に覆われている。ふわふわとした柔らかいそれは、まごうことなき金。

 奇跡のような、そう語ったのは小間使いの少女だったか。

 だが、それはけっして大げさな表現などではなかった。
 眠る幼い姫君は、見るものに安心と平穏の情を湧き起こさせる。ささくれだった彼の心すらも癒されるようだった。

 うっとりと夢中で見守るリュイスに気づいたものか、赤子の長い金のまつげが揺れ、目が開かれた。希有な緑の宝玉のような瞳だった。まだよく見えぬはずなのに、無垢な眼差しが、まっすぐにリュイスに向けられる。と、そのとき、衝撃が彼を襲った。まるで、心臓を鷲掴みにでもされたかのようだった。

 言葉が、彼の喉から滑り出た

 そして、それはけっして祝福の言葉などではなかった。

「我は『一なる騎士』、大地の王を聖別し、守護するもの。そして、制するもの。大地の代弁者にして審判者。我は誓う。我が忠誠を。そなたこそが我が主にして……」

「リュイス様っ!」

 王妃の悲鳴のような声が彼の誓約の言葉を遮った。
 そう、誓約の言葉。『一なる騎士』がその王を聖別し、忠誠を誓うときにのみに使われるはずの言葉。『大地の王』が健在であるときには、けっして紡がれることのないはずの言葉。

 王妃の青い瞳には、まるで呪詛でも聞いたかのような畏れの色が浮かんでいた。
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