年下の君に恋をして
「お姉!」

「どうしたの?」

「あーっ! 噂は本当だったんだ…」

美穂は翔を指差して、目を大きく見開いている。

「美穂、まだ仕事の時間じゃないの?」

「早退して来た」

「落ち着かないから、座りなさい」

「うん。そうかあ、この人かあ。この子って感じだけど……」

なぜか興奮気味の美穂は、向かいの翔をジッと見ながら腰を降ろした。

「妹さん?」と、翔が私の耳元で言うと、

「はじめまして、妹の美穂子です」

と、遅ればせながら美穂は言い、

「小田嶋翔です。よろしくお願いします」

翔も返し、二人はペコンをお辞儀をした。
美穂の頬がポッと赤くなったのは、私の気のせいではないと思う。


「美穂、いったいどうしたの?」

「どうしたも何も、今頃、町はお姉の噂でもちきりよ」

「なんで?」

「なんでって、お姉、その人とキスしてたでしょ?」

「え? そ、それは……」

美穂から突然そんな事を言われ、恥ずかしさで私はしどろもどろになった。
隣の翔は平気みたいだけど。

「しかも濃厚で、長〜いキスなんだってね?」

「み、見られてたの?」

「駐車場でなんかするから、何人もの人が見たそうよ。それで店を閉めたんでしょ?」

「そういうわけじゃ、ないんだけど……」

と言ったのは母。店を閉めたのは、父と翔を合わせるためだからだ。

「でも正解よ。今日はこのまま開けない方がいいと思う。野次馬がいっぱいやって来ると思うから」
< 170 / 178 >

この作品をシェア

pagetop