甘い秘密指令〜愛と陰謀に翻弄された純情OL〜
沼津に着いた。

潮の香りを運ぶ暖かい風。
穏やかな海面にきらきら光る春の優しい陽射し。

「春の海 終日(ひねもす) のたりのたりかな」

伸びをしながら進藤さんが俳句を詠む。

正しくって感じだなあ…

「誰の句だっけ?」

「誰だったかなあ。芭蕉?」

「与謝蕪村」

征一さんがボソリと言った。

「征一さん、凄〜い」

思わず征一さんの腕に抱き着いた私。

「ば〜か。常識だろ?」

言葉とは裏腹に照れる征一さん。
そんな私達を、目を細めて見つめる恵美ちゃん。

「さあ、ラッコを見に行きましょう!」

進藤さんの掛け声で、私達は水族館へと向かった。

進藤さんは恵美ちゃんの手を取り、引っ張るようにして歩いて行く。

「私達も手、繋ぐ?」

征一さんを見上げ、恐る恐る聞いてみた。

「ああ、そうだな。なんならこのまま歩いてもいいぞ」

「あ、ごめんなさい!」

私は征一さんの腕に絡まったままだった。
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