ボーダー
つぼみ

中学入学式

……レンこと宝月 蓮太郎がN・Yへ旅立って1週間。
彼からは何の連絡もない。

……今日、地元の中学の入学式なんだよ?

「おめでとう」の一言くらい、欲しいよ。

「忙しいんだろ。
アイツも、新しい環境に馴染むのに、時間が掛かっているはずだ。」

ミツのその言葉と、彼と同じクラスだって事実に救われた。

ミツはいつだって、私に元気をくれる。

うじうじしてても仕方ないし、前向きに過ごすしかないよね!

……友達、出来るかな?
歌でよく歌われるけど、100人はさすがにいらない。
でも、1人も出来ないのは嫌だ。

教室の扉を開けて、入学おめでとうと書かれている黒板が目に入る。
それに貼ってある名簿の紙。
その近くに、出席番号順に着席すること、という文字が書かれていた。

出席番号順だと、私とミツは席が大分離れることになってしまう。
それが寂しくなってむぅ、と頬を膨らませる。

すると、後ろからトン、と遠慮がちに肩を叩かれた。

見覚えのある、白い肌。
そして、向日葵みたいな笑顔。
少し茶色がかった髪。

間違いない。

魔導学校の頃、私をパソコンのチャットで中傷していたグループのリーダー。

……霧生菜々美《きりゅう ななみ》。

この出来事がキッカケで彼女は魔導学校を退学になった。

「華恵ちゃん?
華恵ちゃんでいいんだよね?
ホントにごめんなさい!
あのとき、私どうかしてた。
奈斗くんの言いなりになって……‥。
私も、奈斗くんに歯向かったら同じようにいじめられたから。
精神的に少し不安定になって入院してたこともあったくらい。

心閉ざしちゃったって聞いたとき、すぐわかったの、私のせいだ、って。
だから……ホントごめんね。」

「ナナのせいなんかじゃないよ。
悪いのは奈斗くんだし。
奈斗くんも、根は悪い子じゃないんだけど。

とにかく、もう謝らないで?
あ、ハナでいいよ。」

「ありがとう。」

こうして、私が差し出した右手を彼女が握ったことで、仲直りした。

「もう友達出来たのか?
早いな……人見知りのお前にしては。」

ミツの声がした。

「あっ、ミツ!
ってか、人見知り自分もでしょ?
ねぇ、隣の人は?」

「ああ。
さっき友達になった同級生だ。」

「矢榛 信二《やはり しんじ》だ!
よろしくな!」

少し茶色がかった髪を、センターで分けている男の子。
青いネクタイと、ベージュのブレザーにスラックスという制服が、男の子にしては小柄な身体に着られている感がある。

なんか、テンション高い子だなぁ。

「か、蒲田華恵です……」

お互いに自己紹介をした後、入学式のため体育館へと向かった。

体育館に向かう道すがら、ナナと矢榛くんは、家が近所でよく遊んでいたらしい。
もしかして、お互いに恋してたり?

いつか聞き出そう!

これから、この4人で過ごしていく。


……翌日。
教科書配布の後、係決めだ。

評議委員というクラスをまとめる役割の仕事にミツが立候補していた。

「え?ミツ、やる気?」

「だって、誰も手ぇ挙げないし。
こういうの、誰かが手を挙げなきゃ終わらないだろ。」

「しょーがない、ミツ一人じゃ不安だろうから私もやるよ。」

ミツと一緒に過ごす時間が増えるなら、それでいい。
こうして、私とミツは評議委員、ナナと矢榛くんは図書委員になった。
ウチの学校の図書館、広いし雑誌も豊富なんだよね。

そして、やってきた部活の「仮入部」期間。

昔から親に文才があると言われていたらしい私は、演劇部に入ろうと密かに決めていた。

いざ演劇部への扉を叩いた。

って、ミツとナナと矢榛くんがいる。
結局、4人で演劇部に入ることにした。


そして、学校にも大分慣れてきた5月。

「教育相談」とやらが始まった。
悩みなどがあればこの期間に相談できる。

なぜか初日に私たち4人が名指しで呼ばれた。

矢榛くんもナナも、私も早く終わり、ミツの番だ。
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