ボーダー

過去

年相応以上に大人びている。
オレに風呂を勧めるメイの姿は一端の、子供が2人くらいそうな主婦みたいだった。
シャワーを浴びつつ、メイとの結婚生活を想像しながら考える。
実際のところ、子供2人とメイとの生活はどんな感じなのだろう。

広い屋敷に住むことにはなりそうだ。
……なんとなく予感はあった。
父が生前住んでいた広い豪邸。その屋敷に住めるように、然るべきところに修復や修繕、リフォームを頼んではいるようだ。
しかし、なぜか話がまとまらないらしい。

そこがなんとかなればいいな。

なぜメイが高校生にして一人暮らしなのか、オレは知ってる。

……4年前のある事件。

その真犯人が、他ならぬメイの父親だった。
もう死刑が執行されているから、今はもう、いない。

それから数ヶ月後、今度はメイの母親が姿を消した。
『メイへ。
お母さん、しばらく帰らないけど、心配しないでね?』

という1枚の書き置きを残して。

……日本で有数の自殺の名所、滝叩橋。
その下を流れる川は、急流で死体が発見されにくいとされている。

この橋付近で、メイの母親らしき人を見た、っていう目撃情報もあるけど、真実は闇の中だ。
今もメイの母親の生死は不明だ。
そういえば、メイの母親が失踪した夜も、この家に泊まったなぁ。

今度は乳白色の湯舟に浸かって、考える。

両親を亡くしたオレは、この国祖父母の家に預けられたけど、身寄りがなかったメイは、一人暮らし同然なワケで。

……そう考えるとオレって……幸せ者だよな。

寂しそうなメイの姿を見ていると胸が痛んで、何度かオレの祖父母の家に泊めてやったりもした。
「寂しい」という台詞を一切言わないメイは、ホントに強い。
遠慮して、自分の弱さをさらけ出すのを嫌うメイのことだ。
言いたくても言えない可能性はあるが。

…そんなメイは、オレが一生守ってやらなくちゃいけない。

その覚悟は出来ている。

何なら、今すぐオレの祖父母に『メイはオレのガールフレンドです』と紹介しに行ってもいいのだ。

自分の身内にガールフレンドだと紹介したり、『I Love You』を相手に言う。
それが意味するのは、デーティングの相手に本命だということを伝えるということ。

アメリカは日本のように、好きです!なんて告白はしないのだ。
雰囲気で、それとなく相手に察してもらう文化になっている。

こういうの、苦手だろうな。日本にいるオレの幼なじみたちは。

何なら、年齢の壁が取り払われたときは籍を入れたいくらいだ。

普段は強がってるだけで、メイがホントは寂しがり屋だってこと……
オレは知ってるよ?

それでも、変な遠慮だったり、気を遣うところはあるのだと思う。
メイなりに。

ただ、オレの前でだけはありのままのメイでいいし、そんなメイが好きなのだ。
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