ボーダー
準備

謀略

2人で、カフェやらレストランで食事をすると、何だかこんな感じなんだろうか。
そんなことを想像させる。

楽しい時間は、過ぎるのが早い。

由紀は、食べ終えたトレーを律儀に看護師さんに渡してくれた。

デキる女を彼女にできて、幸せ者だな、俺は。

「ね、将輝。
ゆっくり将輝と2人で話しながら歩きたい、って思うの。
ヴァージニア州にある、ウィリアム&メアリー大学に進学するから、そこに近い場所で、デート出来たら、って思うんだ。」

「なるほど。
わかった。いろいろ調べておく。」

俺も、カウンセリングの場所、由紀と会いやすい場所にしてもらうか。

由紀との将来をいろいろ妄想していたのだが、それはノックの音と、バタバタという足音によってかき消された。

「あ、ごめん、お邪魔しちゃった?」

現れたのは、数日前に見せてもらった映像の中で、奈斗を虜にしていた、アイツの彼女である有海ちゃんだった。

「差し入れ、と言って甘くないマドレーヌやクッキーを差し入れてくれる有海ちゃん。
しかも手作りらしい。

奈斗も、いい女を彼女にしたな。
由紀には負けるけど。

「あ、ねぇねぇ!
聞きたかったことがあったの!
有海、別れ際に奈斗くんに何を言われてたの?
しかも耳元で!」

由紀が身体を前に乗り出して、今か今かと、有海ちゃんの言葉を待つ。

「奈斗ったら。

『有海が忘れたくても一生忘れられないくらい記憶に残るロストバージンさせてあげる覚悟はある。
だから、いろいろ妄想して待ってて?
何なら、一緒に住んだあと、夜は毎日でも俺はいいよ?
可愛い有海のおねだりなら、何でも聞いてあげる。』
だって。
別れ際に言う台詞にしては、アダルトすぎるよね?
何て台詞残してくれるのよ。
一緒に住む気、ちゃんとあるのね。
その辺りもちゃんと考えてるのが分かったんだもん。
余計恋しくなるじゃない、バカ。

由紀と、浅川くんが羨ましい。
一緒の地で、一緒に住めるんだもん。
いいなぁ。」

もう、有海ちゃんにも俺たちがアメリカに行く話は伝わっているようだ。
協力するよ。
何なら、奈斗に事情を話して、向こうの環境とか、色々聞くこともできるから。
遠慮なく言ってね!」

「ありがと。
有海ちゃんも、寂しくなったら言ってね?
奈斗に催促して、電話させるくらいのことはできるよ。」

俺の言葉を聞くと、ピアノのレッスンがあると言って病室を出て行った有海ちゃん。

風のように来て風のように去っていったな。

忙しい子だ。
パワフルだけど、思考パターンは感情的すぎるわけではなく、冷静だ。
そういうところが、奈斗を虜にするのだろう。

< 231 / 360 >

この作品をシェア

pagetop