ボーダー

責務

夏休み前の集会とLHRが終わったあと、
オレとハナは正門前に。

時計の針が11時をさすきっかりに、目の前に車が停まった。

「御劔様、蒲田様、お迎えにあがりました。」

「助かります、ありがとうございます。」

オレとハナはこれから、レンと、その婚約者。さらにはオレたちの友人がいるアメリカのニューヨークに行くのだ。
しかし、飛行機に乗るのは明日の早朝になる。
だから、空港近くのホテルに泊まるのだ。

荷物は予め、ホテルに預けてある。

車内で、武田さんはオレたちに、分厚い封筒を手渡してくれた。

中身は、ドル紙幣だった。
確かに、両替は頼んだが、渡されるのが直前とは思わなかった。

2時間ほど車を走らせて、成田空港に到着する。

そして、そこから近くのホテルに。

武田さんもとい、宝月グループが頼もしい。

食事をした後に、万が一にも彼女を抱きたくなると困るので、オレは武田さんの部屋にいさせてもらった。
彼女の睡眠を邪魔するような恋人ではない。

迷子にならないように、ハナと手を絡める。
繋がった手は、緊張からなのか、少し汗ばんでいた。

そういえば、ハナは海外への旅行は初めてと言っていた。
緊張している理由はそれか。

「大丈夫だよ、ハナ。
そんなに緊張するな。
オレがいるじゃん。な?
隣にいるの、オレじゃ不満なの?」

オレがそう言ってやると、ハナは首がとれそうになるくらいに、首を横に振った。

「良かった。
何なら、婚前旅行気分でイチャつくか。」

オレが可愛い彼女の耳元で囁くと、もう!と言ってぷい、と拗ねてしまった。

「早く参りましょう。
飛行機に乗り遅れてしまいます。」

武田さん、空気を読まないでくれて助かった。
彼について行きながら搭乗手続きを済ませて、飛行機に乗った。

飛行機、か。

乗るのは何年ぶりだ?

慣れた手つきでシートベルトを締めるオレだが
隣のハナがかなりてこずってる。

仕方ねぇな。
際どいトコロを触るが、致し方ない。
不可抗力、ってやつだ。

「とりあえず、締めたけど。
苦しくない?

際どいトコ触ったけど、もう恋人だし、いいよね?
ハナ。」

「んも!
まぁ、仕方ないけど。
ミツがいなかったら分からなかったし。
ありがと!」

反則だろ、その可愛い笑顔。
理性保つかな……。

白いボウタイブラウスに、赤いカーディガン。
ネイビーのロングパンツ。

久しぶりにハナの私服を見る。
パンツからうっすら下着のラインも見えるのでそそられる。

パサ、とブランケット代わりに着ていたパーカーを膝に掛けてやる。

どこの馬の骨かも分からん野郎に、愛しい恋人の下着のラインなぞ、見られてたまるか。

それを見る権利があるのは、恋人であるオレだけだ。

数週間前に、レンの別荘でした3回が響いたか、はたまた期末テスト終わりのご褒美の2回の疲れが残っているのだろうか。

オレの愛しい女は横で寝息を立てている。
オレの身体に、彼女の身体をもたせかけてやった。
どうせなら、少しでも疲れがとれる格好で寝かせてやりたい。

ふわりと香るのは、彼女が愛用しているシャンプーかボディークリームなのだろうか。

あるいは香水か。

その香りは、期末テスト終わりのご褒美の際、近くで感じたものだった。

そのときのことを思い出してしまう。
彼女の甘い声に、柔らかい素肌の感触。
薄い膜越しだが、締め付けられる際の昂り。

婚約者に欲情しまくるレンのこと、笑えねぇ。

そっと席を立って、機内のトイレで手早く処理をする。

「……っ、はぁ……。やべ。」

そっとドアを開けて、外に誰かいないのを確認して、座席に戻った。

オレがいなくなっても、夢の世界に入っていたハナ。
よっぽど疲れてたんだな。

優しく頭を撫でてやる。
疲れさせたのは、オレの責任でもあるから。

「んぅ……
あれ、ミツ?
寝てた?ごめん……」

オレの肩に頭をもたせかけて寝ていたハナが起きてしまった。

「ん?
謝られるいわれはない。
横で可愛い寝顔見れて満足。

寝ててよかったのに。

大丈夫?気分悪いとかない?」

オレの問いかけに対しては、元気いっぱいに大丈夫、と答えるハナ。
そこは安心だ。

起きたくなかったなぁ、と呟いた彼女に、理由を尋ねた。

夢にオレが出てきたらしい。
高校卒業が決まり、卒業旅行のときの部屋でのこと。
当然のようにそれぞれのカップルで部屋割りされていたという。
婚約指輪を渡されて、オレにプロポーズされたようなのだ。

しかも、その婚約指輪はいろいろ支えてくれた感謝の気持ちを込めて、レンとメイちゃんがプレゼントしてくれた、ハナの希望通りのものだったという。

幸せだったなぁ、と笑顔を溢す、オレの可愛い彼女。
いつか、本当にその夢の通りにプロポーズしてやるか。

そんなことを考えていると、オレも眠ってしまっていた。

そろそろ着陸らしい。
シートベルトは、オレが丁寧にハナに教えた。

際どいトコロを触って、せっかくさっき処理したのに、水の泡にしたくない。

無事着陸し終えると、機長に拍手を贈って、周りの人と譲り合って順番に飛行機を出た。

無事に入国審査を終え、キャリーバッグを片手に空港を出ると、1台の車が目の前に停まる。

運転席からは、他ならぬオレの幼なじみ、レンが顔を出した。
半袖のグレーのポロシャツにジーンズだが、サングラスなんて頭に乗せている。

「お、そろそろ着く頃だと思ったんだ。
早く乗れ。
案内するよ。
大事な幼なじみのお前ら、というかミツにはオレから、ハナにはメイ。
それぞれ、言いたいこともあるんだ。」

レンの運転は不安だったが、なかなか様になっている。
ハナの分のキャリーケースとオレの分のキャリーケースを乗せた車は、20分ほど走って停まった。

車が停まったのは、大理石の壁と白い床がオシャレな家。
武田さんが、いつも乗ってくるリムジンも停まっていて、それもきちんと駐車スペースに収まっている。

どんだけ広いんだよ、この家。

玄関を入って、ハナと2人でおずおずと歩を進めていると、にこやかな老夫婦に迎えられた。

「初めまして。
いつも日本で蓮太郎がお世話になっているわ。
蓮太郎の祖母、奈美です。」

「初めまして。
蓮太郎の祖父、眞人です。」

エントランスを進むと、たくさんの観葉植物と小さいベンチがある空間が顔を出す。
そこからはダイニングが見える。

そこからは、メイちゃんはもちろん、有海ちゃんや由紀ちゃん、奈斗や将輝。
それだけでなく、矢榛とナナちゃんの姿もあった。

彼らは、目ざとくオレたちを見つけると、こちらに手を振る。

なんでここにアイツらがいるんだ?
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