ボーダー

進路

〈ハナside〉

本当に楽しかったなぁ、修学旅行で行ったマレーシア。

かといって、浮かれてばかりもいられない。

期末テストの範囲は膨大で、ミツやレン、メイちゃんと勉強をした。
みんな地頭がいいから、勉強内容はほとんど頭に入っているようだ。

期末テストは、何とか平均点以上は取れたのだった。

期末テスト終わりには、担任である多喜本《たきもと》先生、通称タッキーとの個人面談を行った。
当然、話題は進路について。
特に、これといって考えてないんだけどなぁ。

「……そうか。
進路、まだ考えていないか。

公民の坂上先生がな、模擬裁判のとき、蒲田の表情がいつも以上にイキイキしていたと仰っていたのをよく覚えてるんだ。

考えてないのか?そういう道は。

お前の恋人も喜ぶだろうに。」

ミツのこと?

「彼は、彼の兄が検察官だから、その道に進むのは納得です。
でも、私はそういうわけではないですし。
仮にその道に進むとして、司法試験だって、受かるかどうか……」

素直な気持ちをこぼした。

「……蒲田にしては、珍しく弱気だな。
そのうち、いつになるかは知らんが、御劔と一緒になるんだろうが。

そんな自信なさげじゃ、愛想尽かされるぞ?
まぁ、仮にそうなっても、御劔ならお前を必死に励まして立ち直らせるだろうがな。

人の気持ちに寄り添える力を持っているお前なら、司法試験受かるかはともかく、弁護士になってもちゃんとやっていけると思っているんだが。」

そんなふうに、見ていてくれていたんだ。

「考えてみます。
ありがとうございます、多喜本先生。」

「そんなお礼を言われることでもない。
教師としては当然だ。

個人の幸せなんて、人それぞれだ。
大学で勉強するのが幸せな人もいれば、高卒で働いて社会に出て、金を稼ぐ、そして家庭を持つのが幸せな人もいる。
その幸せの後押しをするのが、俺の仕事だ。」

さすが、定年間近な教師なだけはある。
私人生経験豊富なだけあって、的確なアドバイスをくれる。

こんな教師に、この年代で出会えたことに感謝だ。

「面談お疲れ。
オレも疲れたわ。

進路は決まってる、っていうのに与太話をいろいろと……

まぁ、大学に関してはいろいろと選択肢をくれたよ。」

面談は免除のレンとメイちゃんは、先に帰ったという。
いいなぁ、羨ましい。

「久しぶりにお茶、だけじゃなくて夕飯でも一緒にどう?
何でも愚痴聞くし。

彼女の好きなメニューくらいなら奢るよ。

店の目星はつけてあるつもりだけど。」

「久しぶりにご一緒しようかな!
進路進路、受験受験で、あんまりこういうことできるの少なそうだし。」

学校の敷地内を出て、しばらく歩くと、自然に手が絡む。
何だか、こういうささやかなのが嬉しい。

さりげなく、私の好きなパスタ屋さんの目星をつけているのも、できすぎた恋人だ。

私はチーズたっぷりのカルボナーラ、ミツはなすとしめじのボロネーゼを食べていた。

「ん。」

フォークに巻いたボロネーゼを、フォークごと差し出すミツ。

「んー?」

彼は何も言わないまま、フォークを私の口に持っていく。
それで分かった。

恥ずかしかったが、口を開ける。
ボロネーゼは、パスタとお肉がよく絡んで美味しかった。

私が頼んだカルボナーラと、ミツが頼んだボロネーゼ。この2つで迷っていたなんて、どうしてわかったんだろう。

「なんか言われた?
進路について。

担任の多喜本から。」

「まぁ、いろいろと言われたよ。
模擬裁判でイキイキしてたから、弁護士いいんじゃないか?
感情に寄り添うことも必要だからうまくやっていけるはず、とか。

いずれはミツと一緒になるんだろうけど、そんなに自信なさげじゃ愛想つかされるとかね。」

「多喜本の目は節穴か、っつーの。
んなことで大事な恋人、いずれは一緒になりたい女に愛想尽かしたりしねーよ。」

「そう言ってくれてありがと。
ご褒美はおすそ分けね?」

さっき、私がミツにしてくれたみたいにフォークにカルボナーラを巻いて、彼の口に持っていく。

少し開いた口にフォークを差し込むと、私の頭に手をポン、と置いてくれた。

「あのパスタ屋さん、美味しかった!
センスのいい恋人で幸せ!
ありがと、おやすみ!」

恋人になっても変わらず、隣同士だというのに家の前まで送ってくれるミツ。
優しい恋人に軽く口付けて、家に入った。
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