ボーダー
どうやら、熱があるらしい。
急いで、私の部屋のベッドにミツを寝かせた。

後を私に託して、御剣検事さんと巴さんは裁判所へ向かった。

母親とリビングで二人きりだ。

意を決して、聞いてみた。
「お母さん。何で教えてくれなかったの?
私が養子だって事。
御剣検事さんから全部聞いたよ。」

私はそうカミングアウトしたが、お母さんはさほど驚いてはいなかった。

「そう。
よく、耐えられたわね。
あなたが……全てを受け入れられる年齢になったら話そうって思ったんだけど。」

「大丈夫。
ミツが、『そういう辛いことも全部オレが一緒に背負ってやる』
って言ってくれたから。
それに、血は繋がっていなくても、私の母親は今のお母さんだって思ってるから。」

お母さんと私の実母は、幼なじみで昔から仲良しだったらしい。

その他にもいろんな話をした。
探偵の助手だけじゃやっていけないから、いろいろな仕事をしていたことも今日初めて知った。


しばらく話した後、ミツの様子を見るべく、2階に上がった。


私は、お粥と冷えピタを持ってミツがいる部屋に入った。

「ミツ?大丈夫?」

私のノックの音で起きたみたいだ。

「ハナか。
大分ラクになったよ。」

気付けば、熱で倒れた当初とミツの服が変わっている。
私の父親の服を借りて自分で着替えたという。

「もう。
言ってくれれば着替えくらい持って来たのに。あ、ちょっと待ってて。
何か飲み物持って来る。」

そう言ってベッドの側を離れようとしたとき、服の裾が何かに引っ張られた。

「行くな……」

ミツの指がそうしているみたいだ。

「なんで?
大丈夫、すぐ戻ってくるよ。」

「それでも、頼むから……ここにいてくれよ。
頼むから。」

ミツがこんなに甘えてくるのは初めてだ。

ふと気付いた。

彼のお母さんは旅行好きで、1ヶ月くらい帰って来ない。
お兄さんは検事なので多忙。
実家となるこの家には書類などの用がない限り帰って来ない。

だから、たまにほぼ一人暮らしみたいな状態になる。
ミツも……寂しいんだ。

その気持ちはよく分かる。
側にいてあげたかった。

私には……これぐらいしかできないから。

「ん……」

いつの間にかベッドの隅で寝てしまっていたらしい。
御剣検事さんと巴さんが、心配そうに私に声をかけてきたことしか記憶にない。

裁判は無事勝訴したらしい。

翌日にはミツの風邪もすっかり治った。

そうしているうちに、新学期を迎えた。
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