ボーダー

幸せ

〈レンside〉

挙式から日が経つと、徐々に夫婦なんだ、という実感が湧いてきた。

無事に、愛しい妻、メイがお腹に宿した子は心拍が確認された。

悪阻が酷く、ベッドから起き上がれない日々が続いたメイ。
そんなときに、奈斗から有海ちゃんの両親への婚約報告を見届けたオレの祖父母が、彼女を心配して宝月邸に来てくれた。

「メイちゃん、大丈夫?」

「こういうとき、男は何も出来ないんだよな。
それが辛いところだが、彼女の心の支えになってやるんだぞ、蓮太郎。」

「分かってる。」

本音を言えば、メイだけにつきっきりでいてやりたいが、それは出来ない。

……やることはたんまりある。

黒沢夫婦の家の手配、有海ちゃんの実家のリフォームの手配と、リフォーム完了までの仮住まいの提供。

それに、今のご時世、将来を期待される俳優は山ほどいる。
それらに埋もれないために、俳優でアイドルグループ結成もいいんじゃないか、という事務所との直談判。

宝月グループ当主としての雑務。

「……ごめんな、メイ。
オレ、仕事ばかりで、何もしてやれてないや。
1番しんどいの、メイなのにな。」

ふるふると、メイは首を振った。

「……何言ってるの。
蓮太郎が稼いでくれなきゃ困るのよ。

無事に元気に産まれても、この子を育てられないじゃない。

だから、蓮太郎はそのままでいいの。
仕事してる旦那も好きだから。」

体調が思わしくないはずなのに、軽くキスをしてくれたメイ。

そのキスに応えるように舌を軽く絡ませた後、メイの頭をこれでもかと撫でた。

「ちょ、蓮太郎!
髪ぐしゃぐしゃにしないでよ!」

「んー?
いい奥さん貰ったな、って思ってさ。」

「……もう。
私も。
いい旦那さんも隣りにいるし、この子も授かれて、幸せよ。」

「……可愛いこと言うママさん。
……産後に甘いお仕置き、覚悟してね?
これでも我慢してるんだから。」

「蓮太郎ったら。
まぁ、いいわ。
この子を1人にさせるのも忍びないし、何年か空けて2人目も考えましょうか。
その辺りは、余裕が出てきたら話し合いましょう。」

「……悠長なこと言ってると、話し合う前に作っちゃうかもよ?
2人目の子。」

「……バカ!」

こんな会話をしている間にも、少しふっくらしてきたお腹を愛おしそうに撫でるメイ。
メイの華奢な手の上から、オレの手も重ねる。

「……何か、今、3人でひとつ、って感じだな。
こういうのを、『幸せ』って言うんだな。

人生の半分も生きてないけど、それだけはハッキリ分かる。

愛する、頼れる奥さんもいて、そのうちオレたちのどちらにも似てるだろう子供もいて。

幸せすぎるよ、ありがとう、メイ。」

唯一残念なのは、まだ流産の可能性があるためメイの高くて甘い、色っぽい声を聞けないことだ。

こういう空気だったら絶対に、可愛いママさんを抱き上げて、ベッドに連れて行ってるんだけど。

仕方ないか。

そんな会話をしていると、武田がオレたちの部屋に荷物を持ってきた。

武田には、地下のガレージに一時保管してあった品々を部屋まで持ってきてもらっていた。

そのどれもが、オレたちが挙式をするにあたって、招待状と共に送付したウィッシュリストにあったものだ。

挙式の疲れがやっと癒えてきたので、2人で開けようということになった。

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