ボーダー
<ハナside>
夏休みを終えて、課題テストを終えると、高校に入って初めての楽しみだった文化祭の季節になった。

私たちのクラスは、劇をやる。
私が出る合唱部の発表は午後からなので、午前のみ私とミツとレンが演じる。

幼なじみだった二人が、両親の死によってどちらかの家に同居することになる。

ライバル役はレン。
リアルな私たちだから、ほとんど演技はいらない。
……いざ、本番。

劇の観客の中に、見覚えのある顔を見つけた。

そして、劇が終わると、その子に声を掛けられたんだ。

やっぱりそうだ。

探偵学校にいたとき、私に優しくしてくれた男の子。

新澤 和貴《にいざわ かずき》。

「ちょっと今、時間あるかな?
話があるんだ。ついてきてくれる?」

断る理由もないので、彼について行った。

「あのさ……突然なんだけど。
俺……ハナのこと…好き……なんだよね。」

本当に、突然の告白。

かなりビックリした。
私にはもう、ミツという好きな人がいる。

だから、断った。

「ごめんね。
私……好きな人がいるから、和貴くんの気持ちには応えられない。」

「何となく、そんな気はしていたよ。
……ありがとう。
これで吹っ切れたよ。

友達では……いてくれるかな。
先生にも伝えなきゃだし。」

「先生、元気?」

「ああ。元気だよ。
ハナも元気そうで良かったよ。

……じゃあ、また後でな。」

和貴くんは、私の頭をわしゃわしゃっとしてから、どこかへ行ってしまった。

その時、ブレザーのポケットに、和貴くんから紙を入れられたことは知らずにいた。

……私は、気付いていなかったんだ。
……この会話を、ミツが聞いていたなんて。

愛実に声を掛けられたことで、危うく忘れそうだった英語部の劇の上映の司会役をやる。

それもこなしたあとは、いよいよ合唱部の発表だ。

「発表、頑張れ!
応援してるよ」

「ありがとう!」

愛実からのエールを背中に受けてから、音楽室に向かう。
その前に、文化祭の屋台で焼きそばを食べる。

歯に海苔がついたまま歌うわけにはいかないから、トイレの洗面所で入念に歯を磨いた。

「……よし。」

パン、と頬を叩いて、しょげた顔に気合を入れる。

発表は、本当に大成功だった。

お客さんのいる前だったけど、文化祭の発表を最後に引退する3年の先輩にサプライズで歌をうたったら、先輩たちは大号泣だった。

文化祭1日目は無事に終了した。

お客さんの中に、ミツがいたような気がしたんだけれど、気のせいだったかな。
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