ボーダー
<ハナside>

「レン……!」

慌てて病室のドアを開ける。

「よっ!
ハナ、ミツ。
帰国して早々心配かけたな。」

胸の傷は出血量の割には大したことがなかったようで、ケロッとした顔をしている。

「バカ!
レンのバカ!
何でこんなことするの!?
謝れば済むハナシでしょ?」

レンが本気で死んじゃうかと思った、私の心配を返せ!

いつの間にか頬を流れていた涙は、レンの服の袖で拭われていた。
彼氏みたいなことしないで……!

レンも、ミツも、どちらも男の子として意識してるのに。

「オレ、知ってるよ?
ハナ、さっきも泣いてたってこと。」

泣いているところなんて、見せていない。
それなのになぜ。

「な、なんで知ってるの?」

「外での二人の会話、全部聞かせてもらったからね。」

「レン、まさか、"盗聴"してたのか?」

「さすがミツ。頭いいな!」

レンはバッグの中をまさぐって何かを探し始めた。
すると中から紙切れが落ちた。

当然のことながら全て英語で書かれていて、読めない。
レンのFBIカガク捜査官学校の課程修了書らしい。

「それ、ハナなら読めるかもってミツと二人で話してたことがあるんだよ。
ムリ?」

「ムリだよ!レンこそアメリカにいたんでしょ?読めないのおかしくない?」

「オレ、英語はまだ苦手なんだ。」

どうやって今まで生活していたんだという、
私の心のツッコミが聞こえただろうか。

英語の本格的な勉強は5日後、もう一度アメリカに行ったときに勉強するという。

それと同時に、彼の手の動きが止まる。

「ほら、コイツだよ。
この盗音機にしっかり入ってるからね?
二人の会話。」

「盗音機?
盗聴機のマチガイだろ。」

「盗音機って、盗聴機と録音機を合体させたやつだよ!
その他にも、いろいろ機能を付けたいみたいだけど。
ってか、なんでそれをレンが持ってるの?」

私はレンの手から機械を奪い、底面を見てみた。
すると、不敵な笑みを浮かべて、二人を見る。

「知らないの?」とでも言うかのように。

ふふ。やっぱりそうだ。
"F・E・R・C・made in JAPAN"って箱の底に書いてある。
レンは知らないみたい。

「この底に書いてある英語、ファー、イースト、リサーチ…って読むの。」

「何でお前知ってるんだよ、ハナ……」

「だって私、ここの助っ人として所属してるんだもん。
半年前から。」

所在地は社員以外には秘密。
入りたい人がいれば別だけど……。
そこは、学校のPC室を広くした感じで、パソコンがズラリと並んでる。

1カ月に一回、自分の調べた事をレポートにまとめて提出。

たまに発表会とかプレゼンをやるくらいで、すごい自由。

私が独りでいるところに社員の方が声を掛けてくれたのがきっかけではある。
自由に調べ物が出来るっていうから、入った。
社員の人も、すごい優しいし。

「ハナ、そこに伊達 徹《いだち とおる》って名前のスゴ腕エンジニアいる?」

「いるよ。会いたい?」

何で、レンが伊達さんの名前を知ってるの?

「FBIの同僚が言ってたんだ。
『ココにある機械はほとんどスゴ腕のエンジニアがいる日本の会社から輸入してるんだ。日本に一時帰国したら行くべき』
って。
だから、彼に会ってみたいなあ。」

ミツが何をしているのかを聞いてきた。

「いろんなことやってるけど、今は事件の報告書作成かな。
といっても、ホントの殺人事件じゃなくて、火の玉とか、ミステリアスなヤツだよ。

安心して。
皆、節度のある大人の人たちばかりだから、
いかがわしいことはされてないし。
むしろ、そういうことされてたら、こっちがその相手のことを、徹底的に調べ上げる。
それをネタにして脅迫するとかもやれちゃう側だから。」

ミツとレンの顔が一瞬しかめられた。

……なるほど。昔、ハナをいじめたやつを調べ上げて、ってことも、場合によってはできるわけか。
レン、二人で行こうぜ。
案内はハナに任せてさ。」

「わかった。
じゃあ、レンが退院した後にね。
身体が心配だし。

……あ、それからあのブローチ、ただのブローチだと思わないでね。」

私は、レンとミツにそう言った。
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