ボーダー

その翌日、レンは何事もなく退院した。

私たちはＦ･Ｅ･Ｒ･Ｃの有能エージェントたちがいるエージェントルームに向かった。
そこの扉の前でブローチをかざして１０秒くらいすると、扉が開く。

そう、このエージェントルームはブローチとオーラを識別するという入念な防犯システムによって守られている。
ブローチが入室許可証になっている､というワケだ。

そしてエージェント兼エンジニアの伊達 徹《いだち とおる》さんに施設内の案内をしてもらった。

シャワールームや仮眠室もある。
ミツとレンはここが気に入ったようで､すぐさまエージェントルームの一員になった。

一員になると、１人一台のパソコンと電子辞書が割り当てられた。

実はこの電子辞書には､ヤポーJAWANなどの検索エンジンが入っている上に、パソコンのソフトウェアまでインストールできるようになっているのだ。

それから、レンは残りの３日間を実家で過ごした。
最後の日にはエージェントルームのみんながお別れ会を開いてくれた。

その席で伊達さんは、『よく分かるカガク捜査入門』。
ハゲ頭が特徴のエージェントルームの室長、柏木康一郎《かしわぎこういちろう》さんは、『危険物百科事典』というソフトウェアを、それぞれレンにあげていた。

柏木室長がくれたソフトウェアは、毒物、人工的に作られた毒薬、毒性生物、危険物まで全てのデータが入っている。

それに加えて現場状況を入力すれば、どんな危険物が使われた可能性があるかコンピューターが弾き出してくれるという機能もあるようだ。

すると、レンはミツに声を掛けて、二人で部屋を出ていった。
私は、黙々と料理を口にしながら、閉まるドアを眺めていた。

レンとミツが帰ってくると、再び宴に混ざって夜まで騒いだ。

夜になると、エージェントルームに泊まって、レンとミツ、私は、伊達さんの車に乗って、空港に向かった。

「青春していて羨ましい。」

伊達さんにそう言われたが、エージェントルームって、恋愛禁止っていうルールがあった気がする。

柏木室長がそのルールを制定したようだ。
彼の心境の変化が恋愛面であれば、その昭和のアイドルみたいなルールは撤廃されるだろう、ということだった。

レンとミツ、私が高校生になってから、そのルールは思わぬ秘密とともに撤廃されるとは、当時の私たちはもちろん、伊達さんも知らなかった。