ボーダー

旅立ち

レンが日本に滞在する最後の日。
エージェントルームの向かいにある高級レストランを貸し切ってお別れ会を開いてくれた。

その席で皆は、レンに様々なプレゼントをあげていた。
オレとハナは、魔導学校幼学部担当だった先生たちにも協力してもらって、ビデオレターを作った。

レンは、結構この会で、周囲の様子を見て動いてくれていた。
飲み物の減り具合を見ながら、店員さんにおかわりを注文していたりもしていた。

幹事気質だな、レンは。
女にモテるタイプか。

この5日間で若干、レンの顔に疲れが見える気がする。
久しぶりの日本で疲れているんだろう。

……ところが、そこには"他の理由"があったことに、レンが再び帰国した後、知ることになるなんて思わなかった。

すると、オレはレンに、話があるから外に出ないかと言われた。
レンの言葉に頷いて、外に出た。
……話って何だ?

レンは、部屋から出て少し歩いたところにある壁に身体を預けて、言った。

「オレ、ハナのこと本気で好きになったから。」

……今更言うか。
遅いよ。

「修行の前のミツの台詞でうっすら気付いてたけどさ、病院にいながら考えていたら、自覚したよ。」

……だろうな。
レンにハナへの気持ちを自覚させるために、わざと、あの病院でハナを抱き寄せたんだから。

……あれで気付かないほうがどうかしている。

「女として発展途上のハナに、まさか手を出さないよな?
まぁ、うまく行けば、3年後の今くらいの時期に帰ってくる。

その頃には、十分、オレもミツも欲情させられるくらいのいい女になってるだろ。
だとしても、正式に彼女にする前に手を出すなよ?

ミツ、それだけは約束だ。

オレが一緒に居れない分、ハナをお前に託すんだからな。」

「……出さねぇよ。」

絶対に手を出さない保証はないが、それは極力しないように努力しよう。

「レン。
オレとハナのことは気にせず、向こうでいいカガク捜査官になるんだな。」

オレの言葉を聞いたレンは、にっこり微笑む。
その顔は、この数日間で少し凛々しさを称えた気がした。

なんだか、レンが一足先に大人になったような錯覚さえ覚えて、寂しくなった。

「わかってるって。
そんな、しけた顔すんなよ。

何かあったら、いや、何もなくても連絡はするから。

幼なじみの声聞けないの、オレも寂しいんだからさ。」

オレとレンは、お互いに再会するまで元気でいることを、拳を握り合いながら誓った。
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