こころ、ふわり
18 等身大の自分で


徳山先生の家に呼ばれて食事会をしてから数週間。


学校では芦屋先生とほとんど話すことのない日々が続いていた。


私も話しかけないし、先生からも話しかけてこない。


美術の授業でも、必要以上の会話はしていなかった。


結局、私は菊ちゃんに先生と付き合っていることを伝えられずにいたし、菊ちゃんは私がずっと片想いだと思って芦屋先生の話題を避けてくれていた。


ある日、私と菊ちゃんが学生食堂へ向かう途中、廊下の先で芦屋先生が歩いているのを見つけた。


隣の菊ちゃんが


「萩、話しかけてみたら?」


と私をけしかける。


「え、ううん!大丈夫だよ」


急いで首を振ってみたけれど、菊ちゃんは嬉しそうに「こんなチャンスないから挨拶くらいしないと」とニッコリ微笑む。


彼女の優しさにチクリと心が痛みながらも、仕方なく芦屋先生に会釈する。


「こ、こんにちは」


「こんにちは」


私が顔を真っ赤にしているからか、芦屋先生は笑いをこらえているような、なんとも言えない表情で返事を返してくれた。


それだけ言葉を交わしてすれ違ったあと、菊ちゃんが不満そうに舌打ちするのだった。


「なんか物足りないなぁ〜。最近、芦屋先生の態度おかしくない?」


「どこらへんが?」


私にはいつも通りにしか見えないので、菊ちゃんの気持ちがさっぱり分からずに聞き返す。


「だって前はもっと萩に話しかけてきてくれたような気がするんだよね。授業の時だって萩にはあんまり声かけてくれないしさぁ」


菊ちゃんは、やっぱり鋭い。


意外と他人のことを見ていて、微妙な変化をしっかり感じ取っているのだ。


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