こころ、ふわり


到着した空港で点呼を取り、全員揃っていることを確認してから札幌駅へ向かう電車に乗る。


ここからは移動の先導を実行委員がすることになっていて、私の隣は菊ちゃんではなく真司になった。


真司はリュックと軽そうなボストンバッグしか持っておらず、その身軽さに驚いた。


「ねぇ、どうしてそんなに荷物が少ないの?」


「逆にどうしてこんなデカい荷物なのかこっちが聞きたいよ」


真司は私の大きなキャリーケースを見て笑っていた。


でもそう言いながらも、重いキャリーケースを率先して棚の上に上げてくれたりして、彼の優しさをところどころで感じた。


札幌駅へ向かう電車の車内は、これでもかというくらいはしゃぐ生徒たちの声で騒々しかった。


「お前、あいつと抜け出したりしないよな」


ふと私の顔色を探るように、真司が見つめてくる。


ドキッと胸が鳴り、不安が広がる。
あいつとは芦屋先生のことだろうか。


私が答えに詰まっていると、困っている私に気づいた彼は目をそらし


「菊江のことだよ!誰のことだと思ってんだバカ」


といつもの口調に戻った。


「き、菊ちゃんとはホテルの部屋も自由行動も一緒のグループだもん。抜け出したりなんてしないよ」


なんだ、菊ちゃんのことかとホッとしながらやっと反論すると、真司は視線を窓の外に移して


「見つかったら終わりなんだからな。気をつけろよ」


とボソッとつぶやいた。


「え?」


「なんでもない」


いまいち真司の声が聞き取れなくてもう一度言ってほしかったのに、彼はそっぽを向いてこちらを見てくれなくなってしまった。


紛らわしいなぁ、と私は息をつく。


そして、他のクラスの引率をしている芦屋先生のことを考える。


クリスマスに先生にもらった、ゴールドのネックレスはずっとずっと身につけている。


制服のシャツの下のネックレスを、そっと手で触りながら先生に思いを馳せるのだった。







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