DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 この中に【エターナル・グリーン・アイビー】がある。

 千聖は、逸る心を抑えて静かに跪くと、左手の親指と人差し指でダイヤルを挟むようにして掌を金庫に当て、右手で摘んだダイヤルをゆっくりと回し始めた。

 僅かな音と、左手から伝わるごく僅かな振動を頼りに、一つずつクリアしていく。

 そして四つ目の目盛り――

 小さくカチッと音がして、動くようになったノブを引く。

 扉を開いても、異常を報せるベルの音などは聞えてこなかった。

 その状況に千聖は暫し目を細めて金庫の扉を見つめていたが、徐にポケットから煙草を取り出すとそれを銜えて先端に火を点した。

 吸い込んだ息を、煙と共に金庫へ向かって吹き掛ける。

 次の瞬間、金庫の戸口に赤い光線が見えた。

 一本、二本、三本―― 全部で五本。

(赤外線センサー……予想通りだな。備えあれば憂い無しってとこか)

 煙草を携帯灰皿へ押し込み、今度は長さ二十センチ程の筒から定規型の細い板を取り出す。

 折り畳まれていたそれを広げて金庫の両側に差し込み、レーザー光線を遮断するのだ。

 もしもどちらかが一瞬でも遅れたら即アウトだ。

 息を凝らして一気に押し込む――

 途端に赤い光は鏡のようなその板に反射して、光を放った小さな穴に戻って行った。

「フゥ――」

 小さく息を吐いて手の甲で額を拭い、千聖は摘み上げた石を覗き込んで目を細めた。

 エメラルドの中に蔦の葉の影。

 間違い無く【影】を持つ石だ。

「【エターナル・グリーン・アイビー】頂きます」

 が――

 大切に袋に入れいつもの隠しポケットに納めた途端、不意に動きを止めた。

 小さな、ほんの僅かな物音を千聖の耳は感じ取っていた。


…☆…



< 133 / 343 >

この作品をシェア

pagetop