DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
MISSION 14 ― 嵐の予感 ―


 満月に掛かった雲が途切れる。

 途端、庭の隅にチョロチョロと走り回る小さな影が浮かび上がった。

 時折止まって身体を起こし、それからまた芝生の上を走るという行動を不規則に繰り返す。

 その小さな物体以外何も動くものが無いのを確認して、革の手袋をキュッと嵌める。

 普通の民家にある物よりも遥かに頑丈な作りの石造りの塀は、幅30センチ、高さ250センチはあるだろうか。

 そこへ立ち、約45度程の傾斜を持つ尖塔の天辺に佇む風見鶏を見上げて、千聖は口角を上げた。

「この距離なら十分だな」

 風見鶏に向けて真っ直ぐに右手を伸ばし、狙いを定める。

 直後、闇を切り裂き飛び出した何かが風見鶏の足元にくるくると巻き付くと、千聖は塀の上を走り出した。

 勢いを付けて空中へ身を躍らせる。

 そのまま風見鶏に吸い寄せられるように弧を描きながら、まるでピーターパンの如く高く舞い上がる。

 そして細いワイヤーの殆どが巻き取られた頃、千聖は屋根の最も低い所にふわりと舞い降りた。

 直ぐに下を覗き込む。

 目的の窓を確認し、月が雲に隠れるのを待って今度はワイヤーを少しずつ伸ばしながら下へと向かう。

 天然石を大きなブロック状に切り出し、それを積み上げて作られている外壁。

 僅かな出っ張りへ両足を掛けて踏ん張った状態で、ガラス越しに中の様子を窺う。

 人の気配が無いのを確かめ、今度は薄い板状の金属片を取り出して窓の隙間に差し込み、かんぬき型の鍵を器用に引っかけて外す。

 微かに軋んだ音を立てて開いた窓から中に入り、千聖は額に掛かった髪を掻き上げた。

 金庫の前に立ち、それを見下ろす。

< 132 / 343 >

この作品をシェア

pagetop