DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「誰とでもキスして!私や真紀子さんや、それから……それから今日一緒に居た人や!嘘付いたって駄目だよ!私、見たんだから!橋の上から見たんだから!」

 しっかりと計画を立てて行動する者ほど、予想外の出来事に弱い。

 千聖は思ってもみなかった未央の反撃に、思わず前後も考えずに言い返した。

「あれは成り行きだ。花火の音で警備の人間が集まってきたから――」

「千聖は成り行きでキスするんだ !?」

「仕方ないだろう !? 石のためだ!」

「石のためならキスするんだ !? それ以上の事だって何だってするんだ !?」

「誰もそんな事言ってない!」

「だってそうじゃない!真紀子さんの時なんてここへ連れて来て―― 私が同じ屋根の下に居るのに彼女と部屋で――!」

 真っ赤になって下を向くと、未央はキュッと唇を噛んだ。

「私だって十七よ。男と女が二人きりで一晩部屋に居て、何をしていたかぐらい分かるわ。あの時私がどんな気持ちだったか分かる !? 悲しくて、胸が苦しくて……。きっと―― 千聖になんか分かんないよ !!」

「未央――」

『石があるんでしょ?【影】の――。真紀子さんから聞き出したんでしょ?あの日、そのために真紀子さんここへ連れて来たんでしょ?』

 そう言った時、未央は笑っていた。

 でも本心は違っていたのだ。

 始めてその事に気付いて、千聖は拳を握り締めた。

「だから……だから千聖は不潔よ!馬鹿!馬鹿!大馬鹿 !! 千聖なんか!千聖なんか――」

 大きな声を発しながら、拳で千聖の胸を叩く。

 いつの間にか、涙が溢れて頬を伝っていた。

「千聖なんか―― 大好きなのに………」

「未央……」

「ヒック……大好き………なのに……」

 シャツを両手でしっかり掴んでしゃくり上げる未央を前に、千聖は静かに目を閉じた。

 自然と素直な気持ちになっていく自分が分かる。


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