DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
「―― 分かった、分かったよ。はいはい、言いました。『ああ』って言いました」

 仕方なく千聖は溜め息をついた。

 理由はどうあれ、頷いてしまったのは事実だったからだ。

「でもいったいどうやってここへ入ったんだ?俺を眠らせておいて。背負って―― って事は無さそうだしな」

 未央の腕を見る。

 とても男を担いで歩けるような腕じゃない。

(ということは……引きずって?)

 千聖はブンブンと頭を横に振った。

「鍵は千聖が持ってたでしょ?あなたを運んでくれたのは管理人さんよ」

「管理人?」

「そうよ。あなたが眠っちゃったからって話したら、ニコニコして『若いのに大変だね』って」

 話しながら未央も微笑む。

「えっ?」

 少し落ち着こうと、煙草に火をつけかけていた千聖は、手を止めて未央を見た。

「おい、その『若いのに大変だね』っていうのは何なんだ?あんた管理人と何話したんだよ」

「何って普通の会話よ」

 癖のある髪を両手で掻き集め、くるくると捩る。

「『妹さんですか?』って言うから『とんでも無いです』って。それから『親戚?』って訊かれたから『そういうのじゃありません』。『恋人?』『違います』って答えたわ」

 手を放すと、その髪はまるで美容室に行ってきたかのように綺麗な縦ロールになった。

「そんなふうに話してたら、何か怪しいなって感じで見られちゃって。だから挨拶しなくちゃと思って『いつも千聖がお世話になってます』って言ったの。そしたら『ああ!そうでしたか』って」

 千聖は額に手を当てて天井を仰いだ。

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