DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
 何かしたか?と問い返すのも悪い事のような気がして口角を歪める。

 少女はそんな千聖に小さく溜息を吐いた。

「そうなんだ。私ね、あんなにハードな体験初めてだったのよ。乱暴なんだもの。気絶しそうになっちゃった。なのに―― 覚えてないの?ふぅん……私にとっては凄い夜だったのに、あなたにとっては何でも無かったんだ」

(ハード?初めて?乱暴?凄い夜?)

 立て続けに並べられた言葉に、身体中の血の気が引く。

 どう見たって少女はまだ未成年。

 そんな子供相手にそんな事をした自分は――

 頭の中は益々混乱した。

「ご……ごめん。その―― なんて言ったらいいか」

 そう――

 なんて言ったらいいのだ?

 知らない、覚えていない……そんなので済まされる事じゃない。

 いや、それ以前に、何故この少女をここへ連れて来たのだろう?

 何処から連れて帰って――

 千聖はシーツを掴んで首から上だけ出している少女をじっと見つめた。

 茶色の髪、大きな瞳、大きな口――

「あれ?」

 ふいに頭がスゥーッと冷静になる。

「ちょ……ちょっと待て――」

(昨夜は【ゴールデン・ディアー】を手に入れて―― そうだ、車に乗ったら助手席に若い女が乗り込んで来たんだ。それで車に追われて、そいつを港に沈めてやった。それからここへ戻って来て――)

「あっ――!」

 千聖は急に大きな声を上げ、立ち上がった。

「思い出した!何であんたがここに居るんだよ !? それに変なスプレーで人を眠らせて、いったい何をしたんだ!」

「だって泊めてくれるって言ったじゃない」

 事も無げに答えた少女―― 否、未央に益々カッとなり、千聖は声を荒げた。

「そんな事言ってない!」

「言ったわよ、『ああ』って」

「あれはあんたに乗せられてつい――」

「『つい』何なの?」

 大きな瞳がじっと見つめている。

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