DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 灰皿に置かれた煙草が、いつの間にか殆ど灰だけになっている。

 千聖はそれを摘み上げ、灰皿に押し付けた。

「次は神部の事だったな」

 響がもう一度肯く。

「神部は、俺の両親から石を奪った奴らのリーダー格の男だ。一度だけ会った事があるが――」

 千聖は言葉を止めると、ふいに自分を抱き締めるようにして小さくうずくまった。

 差し出された神部の手を握ったときの、あの背筋が凍るような感覚が蘇ってきたのだ。

 あんな男に会ったのは初めてだった。

 恐ろしく冷たく鋭く、まるで研ぎ澄まされた刃物のようなニオイがした。

 今、その男の元に未央は居る。

(未央……頼むから無事でいてくれ)

 そのまま黙り込んだ千聖に、思わず響が腰を浮かす。

(――?なんだ?気分でも悪いのか?)

 しかし、千聖の肩が微かに震えているように見えて、伸ばしかけた手を止めた。

 いったいどうしたというのだろう?

 神部の話を始めた途端の千聖の態度の急変に、響は戸惑った。

 何処か遠くで救急車のサイレンの音がしている。

 暫くすると、千聖は溜め息をついて顔を上げた。

「悪い―― ちょっと……」

 一旦席を立って、キッチンからコーヒーのサーバーを持って来る。

 ソファーに腰を下ろしカップに注ぐと、また話し始めた。

「神部は、ある人物が立てたという影を持つ石を集める計画の実行者だ。そして、俺の両親に直接手を下した殺人犯でもある。証拠は無いけどな」

(殺人犯?おじさんとおばさんを殺した?そうか……だからさっき)

 響は、コーヒーを口に運んでいた千聖を黙って見つめた。



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