DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

 思わず掴みかかった千聖の腕をスルリと避けながら、神部が拳の背で殴り付ける。

 壁にぶち当たった千聖が、弾かれたようにすぐにもう一度向かって行く。

 神部は大きく突き出された拳を躱して腕を掴むと、後ろに捩じ上げた。

 そのまま左手首の腕時計から細いワイヤーを引き出し、千聖の首に巻き付ける。

「ずいぶん熱くなっているじゃないか。そんなにあの娘が好きか?」

「未央を……返せ……」

 千聖の耳元に口を近付けて囁く。

「私がこの手に力を入れれば、君の人生はここで終わる。なのに君の頭の中は、彼女の事でいっぱいだ」

 直後、目を細めてフゥッと息を吹きかけた。

 ビクッと身体を縮めた千聖に微笑む。

「可愛いな。鎖で繋いで飼ってみたい気がする」

「こ……の……変態野郎!」

 首に食い込むワイヤーから手を離し、右脇にピッタリとついていた神部に肘打ちを見舞う。

 それを避けた神部が身を翻すと、ワイヤーはスルスルと腕時計の中へ戻って行った。

 首筋に真っ赤な線が残った。

「未央は―― !?」

「フッ―― 仕方ないな。そろそろ教えてやろう。その階段を下りた正面の部屋。娘はそこに居る。【宝の箱】と一緒にな」

 神部がそう答えるや否や、千聖は階段に駆け寄った。

 転がるように下りて、船室に飛び込む。

 途端に、未央の姿が目に入ったた。

 未央は――

 白いキャミソール姿で、何も無くだだっ広いだけの倉庫のような部屋の真ん中に横たわっていた。

『例えば彼女が君の知っている少女ではなくなって、女になっていても――』

 神部の言葉が頭を過ぎる。

(それでも―― それでも未央は未央だ。俺の大切な)

 駆け寄って上着を脱ぎ、千聖はそれで未央を包み込むようにして抱き締めた。

 ゆっくりとした足取りで後を追ってきた人影に、顔を上げる。

「神部――」

 神部はフッと笑った。



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