DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~

「私は必死で娘の行方を捜しました。でも見つかりませんでした。私と娘の絆は、その時すでに切れてしまっていたのでしょうね。絶望した私は、両親の言うがままに永池家に嫁ぎました」

 ところが、秋江の娘のもう一つの絆はしっかりと結びついていたのだ。

 やがて成長し、立派な女性となった秋江の娘は、ある日隆利の前に突然現れた。

 佐々木裕一の恋人、向坂香里として。

「母さんがじいちゃんの―― 娘?」

 千聖がふらりと立ち上がる。

「隆利さんは、私の若い頃の面影を香里さんの中に見たのでしょう。彼女の事を色々と調べ―― 彼女……香里さんは自分と私、永池秋江の間に生まれた子だと知ったのです」

「じゃあ……俺は……俺がいつも、じいちゃんに生き写しだと言われていたのは……」

 秋江は呟いた千聖を、優しい眼差しで見つめた。

「ええ、千聖さん。あなたが、隆利さんの血の繋がった本当の孫だったからなのよ。私がこの事を知ったのは主人の死後、主人の文箱の中に隠されていた隆利さんからの手紙を見た時でした。主人は私と隆利さんの事を知っていて、手紙を隠していたのです。だから千聖さん、あなたを初めて見た時どんなに嬉しかったか。どんなに抱き締めたかったか。だってあなたは、私と隆利さんのたった一人の孫なんですもの。あの夜、私はあなたに全てを打ち明けて許しを請うつもりだった。でも……」

 白いシャツの胸元をギュッと掴んで、更に千聖が問い掛ける。

「その事、母さんは……」

「香里さんは、御存知なかったはずよ。隆利さんの手紙には、『名乗るつもりは無い』と書かれていましたから。『名乗らなくとも、私たちは既に親子なのだから』と。でも本当は、香里さんを大切に育ててくださった向坂の御両親に遠慮なさったのだと思うわ」

 秋江は千聖に向かって、穏やかな笑みを浮かべた。

 じっと聞いていた裕一が、首を横に振る。



< 327 / 343 >

この作品をシェア

pagetop