DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
(そうだ―― 本当は淋しかったのは私自身だったんだ。そんな気持ちを分かってくれそうな気がして、自分と同じ目をした千聖の傍に居たかったんだ。でも千聖は……)

 ずっと長い間堪えていた気持ちが、涙に変わってあとからあとから流れ落ちた。

 少しだけ開いた窓から夜の風が入って来る。

 暫くの間未央をじっと見ていた千聖は、ふいにクルリと背を向けた。

「残念だけど違うな。俺は淋しいんじゃない。淋しくなんかない。俺の心にあるのは悲しみと憎しみ……それだけだ」

 東の部屋に向かい、ドアの手前で肩越しに未央をチラリと見る。

 未央は、ソファーにうつ伏せになったまま泣き続けていた。

 カーテンが風に揺れている。

 フウッと溜め息をつき、千聖はまた口を開いた。

「小さなカード状のスポンジを見た事あるか?」

 唐突な言葉に未央が顔を上げる。

「スポンジをビニールの中に詰め、空気を抜いて小さくした物だ。ビニールを破って空気を入れるとスポンジは元々の大きさに戻る。その方法を利用して、布団や衣類を嵩張らないように小さく纏めて収納する方法もある」

「何故そんな事――」

(ドレスのことを言っている?まさか―― さっきの独り言を聞かれた !?)

 未央はがばっと起き上がり、思わずTシャツの胸を掴んだ。

 指に触れたそこは、ドキドキと大きく脈打っていた。

「だから嵩張る物を持ち運びたければ、その方法を使えばいい。ただし、余り多くの衣類やそれから布団なんかはここへ持ち込むな。今まで通りベッドを使っていい。家具はチェスト一つぐらいなら構わない。それ以上は駄目だ、邪魔になる。それから食事は自分の分だけ自分で作れ。材料も自分持ちだ。冷蔵庫とキッチンは勝手に使っていい。洗濯機もだ」

(えっ?ドレスの事じゃない?)

 未央は千聖の淡々とした言葉に目を見張った。

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