DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
 痛さで脂汗が出る。

 けれど、そんな顔は出来なかった。

 医務室へなんて連れて行かれたら、それこそアウトなのだから。

「大丈夫です。気にしないでください。すぐに係の人に来てもらいますからここはこのままにしておいてくださいね」

 微笑んで軽くお辞儀をして、未央はシーツを抱えクリスタルの間へ歩き出した。

 足は痛む。

 でも、今の未央にはドレスをどうするかという事の方が、それよりもっと心配だった。

 思わずドレスを巻き付けたお腹を押さえる。

(どうしよう―― このまま上に行ったらきっと見付かっちゃう。荷物も調べられるだろうから鞄の中も駄目だ。どうしよう、何処へ隠そう)

 クロスを届け、考えながら階段に向かって進んでいた未央の足がピタリと止まった。

 正面から二人組の警備員がやって来たのだ。

 ロビーに置かれたソファーの影や、使っていない部屋などを覗き込んでいる。

 おそらく、客に気付かれないようにしながらもドレスを探しているのだろう。

(警備員だ。マズイ)

 そう思った途端目が合った。

 何気ない振りをして、差し掛かった十字路でクルリと向きを変える。

 しかし、そんな素振りをかえって怪しいと感じたのか、警備員としてのカンなのか、それともただたんに向かう方向が偶々同じだったのか―― 警備員はまっすぐに未央の方へ歩き出した。

 思わず歩く速度が速くなる。

(捕まる?―― 嫌だ。でもこのままじゃ捕まる!)

 未央の頭の中は真っ白になった。

 警備員の足音はどんどん近付いて来る。

 ドレスを巻き付けたお腹をしっかり押さえて、未央は必死で足音から逃げようとした。

 けれども足が痛くて思い通りに進めない。

 確実に警備員との差は縮まりつつあった。

(あそこを曲がれば非常階段に出るはず。そこへ出たら……。もうちょっと、もうちょっとよ)

 自分を励ましながら廊下を進む。

 そして、缶ジュースの自動販売機がある角を曲がって未央は愕然とした。

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