DOUBLE STEAL ~イシヲモツモノ~
 もしも、ここに居るのが自分だと知ったら、千聖は何と思うのだろう?

 何と言うだろう?

 泥棒となんて一緒に暮らせない―― そう言うのだろうか?

 新聞に書くのだろうか?

 尚も疑問ばかりが沸いてくる。

 けれど、一人で答えの出せない物をいくら考えても何の解決にもならない。

 未央はホウッと大きく息を吐くと、ドキドキする胸を押さえて口を開いた。

「回収屋をやっている理由を話せばいいのね?」

「ああ、聞かせてくれ」

 千聖は答えてライターの火を消した。

「分かったわ」

 未央は肯いてゆっくりと話し始めた。

「じつは私自身、取り戻したい物があるの。でもそれが何処にあるのか、誰が持っているのか―― 今はまだ何も分からなくて。当てもなく捜してるって感じかな」

 暗くて確認は出来なかったが、千聖はただじっとドアの前に立っているようだった。

 未央は、おそらく千聖が立って居るであろう方を見ながら話しを続けた。

「いつだったか友だちが、別れた恋人に出したラブレターを取り返せたらいいのにって言い出した事があって――」

 すると、そこに居た者達も「私も、私も」と言い出した。

 取り戻したい物があるのは自分だけでは無かった。

 以外と誰でも取り戻したい物があるのだ。

 だけれど取り戻す方法も何も分からないから、我慢してじっとしているのだ。

 そう思っていたら、ある日テレビの番組でアメリカに『リポマン』という仕事があるのを知った。

 車を買ってお金を払わない人から車を取り戻すのが、その人達の仕事だった。

「それを見て、こんなふうに取り戻したい物を何でも取り戻してくれる誰かが居たらどんなにいいだろう。そしたら私もお願いするのに。そんなふうに考えて……。気が付いたら自分がそれをしてた。だけど、これって立派な泥棒なのよね。もしかしたら私、とんでも無い事しているのかも知れない」

 未央は少し肩を竦めると、自嘲気味に笑った。

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