Faylay~しあわせの魔法
逃げていく娘を護ろうと両手を広げて立つシャンテルは、非情な兵士たちの剣を次々とその身で受け止めた。

クライヴに抱えられながらその光景を見ていたリディアーナの瞳が、大きく見開かれる。

「てめえら!」

サイラスが剣を振り回して救助に向かうも、間に合わない。

その先にいた、クライヴたちも同じ。

精霊の力を借りられず、ほとんど無力と言ってもいいクライヴが、短剣を振り回したところでどうこうなるはずもなく。

彼は歯を食いしばり、リディアーナを胸に抱えて地面に蹲った。

丸まった背に、剣が突き立てられる。

「おかあ、さま……おかあさま……」

クライヴに抱かれていたリディアーナは、目を見開いたままカタカタと震え、小さな声で母を呼び続けていた。そこに、ドン、と腹に衝撃を受ける。

兵士の剣は、クライヴごとリディアーナを貫いていた。

「ぐうっ……」

クレイヴは低く呻き声を上げる。

「サイラス、早く……リディアーナ様……ああ、リディアーナ様……逃げて、ください……」

彼女も剣に貫かれたとは、クライヴは気付いていなかったのかもしれない。

その後も来る衝撃に必死に耐えながら、リディアーナに逃げろと訴え続けたが。

ボタボタと身体に降りかかる生温かい血と、クライヴの言葉。そして、自分を貫く燃えるような痛み。その全てが、リディアーナには何も感じられなくなっていた。

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