Faylay~しあわせの魔法
ランスは歯を食いしばって大剣を胸に掲げた。

鈍い音がして大剣に細い剣が突き刺さる。ビシ、と大剣に亀裂が走り、一瞬にして砕け散った。

ランスの口の端から、鮮血がつ、と滴り落ちる。

「何故……」

顔を顰め、問う。

「何故、そんな、顔を……」

見上げるアレクセイの顔は、僅かではあるが憂いを帯びていた。

「……私も、“人”ですから」

その言葉を受けて、ランスは優しい微笑みを浮かべた。

「ならば尚更、君にこんなことをさせるわけには、いかないな……」

ランスは折れた大剣をアレクセイに向かって投げつけると、素早く起き上がって身を低く構えた。

そうしながら軽く咳き込み、血を吐いた。

アレクセイの剣は、身を貫かなくとも、内臓にかなりの損傷を与えているはずだった。

「……私のために、立つというのですか」

淡々とした言葉の中にも、憂色が混じる。

ランスが氷を蹴り、向かってくる。

「貴方たち夫婦は、どこまで似ている」

アレクセイは、セルティアギルドで対峙したアリアの瞳を思い出した。

星府軍はセルティアを落とせなかった。だが、その後でアレクセイがまた赴き、再建する前にギルドのトップを潰してきた。

カインの命令ではなく。

アレクセイの一存で。
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