Faylay~しあわせの魔法
なるべく下を見ないように、と指示されたものの、やはり好奇心には勝てず。

ヴァンガードはチラリと下に目を向けて──後悔した。

「ううっ……」

思わず呻き声が洩れる。

高いところにいるティナたちの灯りにぼんやりと照らされて見えるのは、ゴロゴロと岩盤の上に転がった、人間の……骨。

長い年月をかけて白骨化したという感じではない。この鼻につく匂いからして、恐らく最近、魔族によって食いちぎられた跡だ。ところどころに残る血肉が、気分を悪くさせる。

「見ちゃったのか」

フェイレイは苦笑すると、顔を顰めて辺り一面に転がる骸に目をやった。

「魔族の仕業だ。ここまで残虐なのは、見たことないけど」

「……かなりの大型ですよ。よく市街地に出る“影”には無理です。町には魔族用の防御壁が張られていたのに。それをかいくぐってきたのでしょうか。実体を持った者は、通れないのに……」

冷静に分析しようとはするものの、語尾はどんどん弱々しくなる。それを、ずっと奥から響いてくる唸り声がかき消した。

「な、今のは!?」

「……この人達を、こんな風にした張本人だ」

フェイレイは低い声で呟く。

ギュッと握った手が震えていた。それが恐怖心からではないことを……ヴァンガードは悟った。

この人は怒っている。

怒りのために、震えているのだ。

冷たい土の下で、こんな風に無残に殺されてしまった人達の無念さを、感じ取っているかのように。
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