Faylay~しあわせの魔法
そして現れた敵に、2人は瞠目したのだ。

ティナの揺れる炎の灯りに照らされた、赤土色の鱗を持つドラゴンを目撃して──。

「そ、んな……こんな、ところに、ドラゴンなんて……」

ヴァンガードの声は、はっきり分かるほど震えていた。

魔族の中でも上位にいるドラゴン種は、よほどのことがない限り人里には近づかない。魔族の住む山の深い深いところにだけ生息する種族だ。

同じ魔族すら狩るという獰猛な牙と爪を持つドラゴンは、単独パーティで出会った場合、全力で逃げろと、ギルドでは指導していた……。

『フェイ!』

天井にも届きそうな大きさのドラゴンに固まってしまった2人の耳に、リディルの声が響いた。

『ドラゴンでしょ? 逃げて!』

その声を聞くや否や、フェイレイはヴァンガードの腰を掴むとサッと肩に背負い、全力で来た道を引き返した。

「あれは駄目だ、俺たちだけじゃ! リディル、母さんに応援を要請!」

『分かった』

ヒュ、と風が飛んできて、フェイレイは力強く地面を蹴った。

飛び上がったすぐ下を、鞭のようなしなやかさでドラゴンの尻尾が通り過ぎていく。

「は、速い!」

巨体なのに恐ろしいほど足が速いドラゴンに、抱えられているヴァンガードは目を剥く。

フェイレイに抱えられて逃げることに多少の抵抗はあるものの、ここで下ろされたら間違いなくやられる。彼の足では逃げ切れるスピードではなかった。

しかしそれはフェイレイも同じで。

ドラゴンを振り切るのは不可能だった。
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