Faylay~しあわせの魔法
「僕は逃げるわけにはいかないんですよ。『英雄』になるまでは!」


オオオオオ、と低く唸る声が、一層近くから響いてきた。ヴァンガードは思わず立ち止まる。その隙にフェイレイが彼の前に出た。

「近い」

フェイレイは剣の柄に手をやり、身を低くして構える。そうして、そのまま前を見据えたままで話しかけた。

「ヴァン、何があっても無事に帰すからな。どんな親だって、子供を心配するものだから」

「貴方はあの人達を知らないから、そんなことっ……」

「来るぞ!」

ゴッ、と冷たい強風が2人の身体を吹き飛ばす勢いで叩きつけられた。足を踏ん張って、なんとか耐える。

風をやり過ごし、顔を上げると……。

辺りをぼんやりと照らすティナたちが、やけに騒いでいた。上へ下へ、右へ左へ。せわしなく動いて逃げ惑っている。

「ティナ?」


《お前たち、逃げなさい》

《逃げなさい》


ティナたちの小さな声は、岩盤に吸収されて消え失せる。代わりに、ズズン、と地面が激しく揺れて、前方から大きな足音が響いてきた。

「来る……」

肌にビリビリと突き刺さる禍々しい気は、只者ではないことをすでに報せていた。だが、人々の命をあんな風に奪っていった敵を許せないフェイレイは、判断を見誤った。
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