Faylay~しあわせの魔法
真っ黒な戦艦の上で激しい闘気が巻き上がるのを、リディルは王城の一番高いところにあるバルコニーから見上げていた。

援護しなくては……と思うのだが、リディルの身体はグラリと後ろへ傾いた。

「リディルさん!」

すぐ横にいたヴァンガードが、慌ててその細い身体を支える。

戦艦の砲撃、しかも主砲の攻撃の一切をリディルの力で受け止めたのだ。倒れて意識を失ってとしても不思議ではなかった。

けれどリディルは上を見上げている。

「大丈夫」

そう言い、ヴァンガードの肩を軽く押しやる。

水の精霊の女王、そして雨の精霊の女王の力を借りて戦艦の砲撃を全て押さえ込んだ。砲筒のいくつかはそれで自滅したが、咄嗟に砲撃をやめた砲筒はまだ生きている。

ここで倒れるわけにはいかないのだ。

アライエルをセルティアのようにはしない。


ティル・ジーアの左右から、一回り小さい護衛艦が近づいてくる。空を飛び回る青い飛行艇に向けて、砲撃が開始された。

街へ飛んでくる砲弾は、対魔族用として設置されている透明な防御壁に阻まれている。

しかしそれもいつまで持つか分からないのだ。

「……ロイエ・スティル」

歯を食いしばって召還した3人目の女王は、リディルに心配そうな目を向けた後、大粒の雨を突っ切るように空へ舞い上がっていった。

鋼の精霊スティルの女王は、光沢のある銀のドレスを翻すと、鋭く長い爪を交差させ、鋭い刃をいくつも創り出した。

それらを護衛艦の砲筒目掛けて放ち、破壊する。青い飛行艇も、女王を援護するように次々と砲筒へ砲撃を繰り出した。

< 540 / 798 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop