Faylay~しあわせの魔法
「すでに、我侭に、生きた」

ひゅう、と最期の風が通り過ぎる。

「お前のしあわせが、私のしあわせだ、ローズ……」

微かに、アレクセイが微笑んだような気がした。

「……馬鹿が」

覆いかぶさるローズマリーが、アレクセイの顔に冷たい雨が降り注ぐのを止め、代わりに温かな雨を降らせる。

「最期くらい、本音ぶちまけて逝けよ……」

確かにローズマリーがしあわせになることを、アレクセイは望んでいただろう。

それは、何故だったのか。それを声にして伝えて欲しかった。

そうすればこんな結末はなかっただろうか。

“あのとき”突き放されなかったら。そして自分がしがみ付いていたら。彼の運命は変わっただろうか。

それでもローズマリーは選んだ。

想いを胸に秘めながら背を向けたアレクセイよりも、正面から想いをぶつけ、手を広げて迎え入れてくれたカインを。

その選択を、過ちだったとは思いたくない。

「……さよなら、アレクセイ」

ローズマリーは立ち上がり、好きだった人に背を向けた。

そして愛する人のもとへ向かう。

「必ず助けるから、カイン……!」


ぬかるんだ庭園を走り、倒れているヴァンガードに駆け寄る。

「ヴァンくん、大丈夫? しっかり!」

声をかけるとヴァンガードはすぐに意識を取り戻した。

アレクセイの衝撃波をまともに喰らいはしたが、傷は浅くて済んだようだ。最も、それほど深い傷を負わせるつもりは、アレクセイにはなかっただろうが。

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