ACcess -縁-
腕だ!

そう思って必死でそれを掴み、自分の方へ寄せた。

歩も俺を掴み、自然と抱き合っていた。

大量の海水を二人共飲んでいたし、体温はどんどん下がっていっていた。

とにかく岸へ、と相方を抱えて水をかく。

しかし、思うように体が動かない。

どんどん、どんどん視界は霞んでいく。
灰色の世界に自分が溶け込んでいく。

ゆっくり底へ沈んでいく…。

実はそれから余り覚えていない。

気付いたら、その日の前後の記憶が曖昧だった。

歩に聞いてみようと思ったが、向こうも気まずそうにしていたので、結局分からなかった。


夢?


でも、歩を掴んだ感触はリアルに残っていた。

あれは…何だったんだろう。

妙にリアルな記憶。
すごく恐いものの様な気がした。

それからは彼が命を絶つ行為をしているのは見ていない。

見ていないだけで、実際の所は知らない。

俺は何も知らない…。

それが現実でも夢でもであってもだ。

その方がいい気がした。
知らない方が。
< 18 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop