ACcess -縁-
俺と道標

-   ペッパー

昔、目の前で歩が死のうとした所を何度か見た事があった。

あんなだが、本当は俺なんかより繊細だった。


最後に見た時は半年ぐらい前だった。

冬の海、冷たい海水に薄着で沖に向かって歩いて行く。

始めはただそれを俺はただ見ているだけだった。

少しずつアイツの体が浸かっていく。

荒い息遣い。波の音。

後ろから呆然と見ている俺。

白い息。涙の跡。

手を伸ばしても届かない。

「歩ー!」

走っても走っても追い付かない。
波が邪魔して思うように進まない。
「歩っ!歩ー!」
手を伸ばす。後少しなんだ…。
届かない…。

泳げないんだよ、俺。
知ってるだろ、オマエ。


振り向けよっ!


「いず…み?」
「あ、ゆむぅっ!」
「…!
 あぁ…嫌だ…嫌あああぁぁっ!」

俺に気付いた歩はパニックになり、どんどん沖へ進む。

俺は高波に掠われそうになり、何度も押し戻された。


薄れいく意識の中で、溺れそうな人間の救助はしてはいけない…という言葉を思い出した。

んなもん知るか。

助けなきゃ。
助けなきゃ、俺達は死ぬ。


きっと俺もパニックになっていたんだろう。

自分が沈んでいくのか、歩が沈んでいくのか分からなかった。

しかしそんな中、手を伸ばした時に何かを捕まえた。

冷たくて温かさを感じない…これは、腕?
< 17 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop