おしゃべりな百合の花
「悪いんだけど…」


 龍一は慎重に、重い口を開いた。


 恐らく今から聞くであろう、自分を拒否する言葉を、彼女も龍一を見詰め返して静かに待った。


「食事は静かに摂りたいんだ。」


 素っ気無いが、意外に丁寧な断りに、彼女は少し肩透かしをくらい、益々勢い付いて、さらに話しかけた。


「じゃあ…食事終わった頃にまた来…」「それもやめて欲しい。」


 かぶせるように龍一が言った。


「人と話すの、嫌いなんだ。」


 龍一の、他人を寄せ付けないオーラは重々承知の上で声を掛けている彼女にとって、そんな龍一の言葉は、自分の目的を諦める理由にはならなかった。


「でも私…あなたと話が…」


 おずおずと、小さく声を絞り出した。


 龍一は、掴んでいたトーストを皿に戻して軽く溜め息を漏らすと、


「用件を聞こう。手短に頼むよ。」


 冷ややかに言った。


 龍一にとっては、意を決した譲歩。


 パッと花が咲くように、彼女は可憐な笑顔を見せ、龍一は不覚にも『可愛い』と思ってしまい、慌ててその感情を押し殺す。


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