誠に生きた少女

永倉と優希が道場に向かい角を曲がると、向こう側からくる奥村と顔を合わせた。

「あ、お疲れ様です。」
「奥村君、こんなところでどうしたの?」

いつもは賄方として、台所や庭などにいることの多い奥村が、道場へ向かう道を歩いていることに、優希は疑問を投げかけた。

「それが、買出しを頼まれたんですが、人手が足りなくて俺だけで行くことになってしまって・・・」

奥村の話を聞くと、いつも買出しを担当している女中が休んでいるために、奥村が任されたのだという。ただ、人手が足りないため、奥村一人で行かなければならず、誰かに道案内を頼みたいのだと言う。

「そっか、奥村君、町を歩いたことないから。」
「はい。それで、道場だったら誰か知ってる方がいるかと思って。」

奥村の言葉に、永倉が答えた。

「それなら、俺らが案内してやるぜ。朝の稽古はもう終わってんだ。」

永倉の言葉に奥村が、安心した表情を見せた。

「よかった。まだ隊士の皆さんとあまり親しくなくて・・・助かります。」

ぺこりと頭を下げる奥村に、優希が付け加えた。

「あ、でもちょっと待ってね。私達、少し道場に用事があるの。」
「あぁ、お前もちょっと付き合え。それからでも、遅くはねぇだろ?」

もちろんと、奥村が頷くと三人は道場に向かって再び歩き始めた。


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