誠に生きた少女
道場に着くと、入り口付近に奥村と同じ位の歳の男が座り込んでいた。
優希は、その近くに走りよると、男の前にしゃがみこんで声をかけた。
「藤野、顔を上げなさい。」
いつもの優希の声色とは思えない、厳しい口調だった。
その声に、下げていた顔を上げた男は飛び起きるように顔を上げた。
「や、夜風隊長!」
藤野と呼ばれた男は急いで優希の前に座りなおし、頭を下げた。
その光景を見ながら、優希はやはり隊長なのだと奥村は実感した。
そして、隣に立っている永倉に問いかけた。
「永倉さん、彼は?」
「あぁ、あいつは藤野勇介だ。優希が率いる零の隊士の一人で、槍術の使い手だ。
あいつなら、左之にも勝てるかもしれねぇな。」
十番隊隊長の原田左之助は新選組きっての槍の使い手だ。その左之に張れるというのだから相当な使い手だろう。
「じゃあ、彼が残り二人のうちの一人・・・」
奥村の歓迎会の夜、優希は自分の隊は優希を含め4人だと言った。
となると部下は3人。山崎がその一人だ。そして目の前にいる彼が、二人目と言うことになる。
「道場で揉め事を起こしたと、永倉隊長から聞きました。私の闘争を許さず・・・局中法度を知らない訳ではないでしょう。土方副長に知れたら、切腹ものです。永倉隊長に感謝しなさい。」
優希の言葉に、藤野はゆっくり永倉に向き直り頭を下げた。
永倉は無言で頷き、藤野を優希のほうに向きなおさせた。
「・・・藤野君、何があったの?」
厳しい口調から、藤野を案じるような口調に変わった優希が藤野に事の真相を問いかけた。
「・・・隊長。」
「・・・反省したら、それでいいから。何があったのか、教えて?」
優希の微笑みに、藤野は少し目を潤ませながら、静かに話し出した。