過去作品集○中編
桜の声を目指して、奥へ進む。
途中、近道だと垣根(カキネ)を飛び越えたら手を怪我してしまった。
『今から俺の家に行こう! な!?』
大きな桜の木の陰で、桜と男は言い合っていた。
『妊娠してんなら、ゴム無しでOKじゃん?』
……最低だな。
俺も人の事言える立場じゃないけど、そこまで腐った奴じゃない。
『最低! あんたなんか翔がやっつけてくれるんだから!!』
腕を掴まれ身動き出来ないのに、目だけは強く奴に負けていない。
『翔って誰? もう新しい男?』
『翔! 翔!!』
桜が呼ぶ。
それが妙に嬉しかった。
こんな俺でも、誰かを守ってやる事が出来るんだな。
『てめぇ、うるせぇんだよ!!』
他の男の名前を呼ぶ桜に腹を立てたんだろう。
男はグッと拳を握り、高く振りかざした。
殴られる!
そう思った瞬間、体が桜の前に乗り出していた。
ガンと鈍い音と、腕に感じる痛み。
目を開けるとそこには……
『翔!?』
涙を流して俺を見る桜がいた。
『ごめん、遅れた』
つか、こんな男のために泣くなよ。
桜、こいつには勿体ないよ……
『あんた、産ます気ないならもう桜に近寄るなよ?』
奴に向かってそう言うが早いか、男は入口に向かって逃げていった。
『……翔ごめんね? 大丈夫?』
って、泣かしてるのは俺か……