幼なじみは俺様王子。




「……爽の側にいろよ」


えっ……?


その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。


決して瞳を逸らさない楓を見て、冗談じゃないんだと確信した。


それって……


もう、楓の隣に居られなくなるってこと……?


ブラウンの瞳を緩めて微笑む笑顔も。


楓の甘い香りも。


温かい温もりも。


優しいキスも……。


……全て、感じられなくなるの?


そんな時、あたしはふとあーちゃんの言葉を思い出した。


――『二頭追うものは一頭も得ず、よ?』


……その言葉はそういう意味だったんだね。


「嘘、だよね……?」


震える声で縋るように、楓を見た。


「……大真面目だ」


だけど、楓はいつもみたいに笑ってはくれない。


悪戯な笑みを浮かべて、“なんて言うと思ったか?”って言ってほしかった……。


せめて、嘘でもいいから笑いかけてほしかった。


――一筋の涙が頬を伝った。


その涙は、17年間の人生の中で一番、悲しくて。


……切ない涙だった。




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