眠る心

恋した人は

その日の午後から、紫季先生
の診察が始まる。

診察と言っても他愛のない
話をしているだけ。

幼い頃の私の話を、先生は
一生懸命に聞いてくれる。

そして、先生の話を私が聞く。
 
先生と私の心が歩み寄るのに
全く時間などかからなかった。
 
私は、何でもどんなことでも
彼に話す事ができ
彼もそれを受け止めてくれる。
 
記憶がないと言う、苦しさ
痛みを、彼は分かってくれる。

「無理に思い出そうと
 しなくてもいいのです
  
 時間などは
 たくさんあります
  
 ひとつひとつ、ゆっくりと
 思い出して行きましょう」
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