眠る心
歩が、重い口を開いた。
 
「彼女は、事務所を辞める口実
 が欲しかったんだろうな
   
 この世界、あんな大手の
 プロダクションを相手にして
 好き勝手にやっていけるほど
 甘くはないのに」

「彼女なら
 のし上がって来るよ」

俺は、そう言って苦笑した。

司もまた、戯(おど)けて
言う。 

「なんせ相手は
 魔性の女だもんね
   
 しゅうちゃんまで
 食われちゃう程の」

「そこで、しゅうちゃん
 こちらも会見を開こうと
 思うんだ
   
 いいように使われてやるには
 俺達は、まだまだ
 そんなに大人じゃない」

記者会見の当日は、沈黙を
続けてきた俺の声を聞こうと
芸能記者で溢れている。
  
俺の耳元で、付き添っていた
歩は言う。

「何でも好きに話していいよ
 しゅうちゃんの思うままに」
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