宛て名のないX'mas

何でだろう?


今、亮太とそんな話はしたくなかった。

亮太には、今のセリフは言って欲しくなかった。



裕美は何も言い返せなかった。


好きだよ?間違いじゃないよね?

ここで言い返さなかったら、孝志への想いが嘘になる気がして。



「うん。好きだよ」

「…そっか。いいじゃん、頑張れよ。まあ、お前と先輩じゃ、ちょっと釣り合わないけど」

「どういう意味よ?」

「嘘だよ、バーカ」



亮太が目を細くして笑う。

けど。


「何よ、ガキ!」


裕美が亮太をバカにして舌を出す。

けど。



いつも通りなはずだけど。


(何か、会話、ぎこちない)


「でもお前、あれはやめろよ」

「あれって?」


「先輩、お前のこと、上品とか、けな気とか言ってたよ。

俺、笑っちまったもん。そんな演技なんかすんなよ」



(何、それ)

「演技なんか…」


痛い所をつかれた気がした。裕美の心は大きく揺さぶられる。

心なしか、亮太の声は少し冷たい。


いつのまにか、笑顔も消えて真剣な表情をしている。
そして、淡々と言葉を発していく。


「本当の自分見せられないんじゃ、本当に好きとは言えないと思うけど」


後ろ頭を思い切り殴られたような気がした。

裕美はかっと顔が熱くなるのが分かった。そして拳を握り締めた。

< 36 / 56 >

この作品をシェア

pagetop