エングラム



「僕のせいでなんだけど。まぁ終わろう──さぁ曲合わせよう!」

ケイはベースを叫ばせてその空気を断った。

「あぁそうだな」

「えぇ」

「は、はい…」

それぞれが返事をした。

ユウはまったくと言っていいほど何も変わらなくて。
ケイの笑顔はきらきらのまま。
シイも変わらず。だったが時折、ケイを見る目が変わる。

不安になった。

少し音に──迷う。

「シランちゃん音」

隣にいたケイが私に言った。

「はい…っ」

みんなは変わらないのに。
私だけが音に迷いが出てる。

再び弦に指を這わせようとした私の両肩に、手が乗った。

「ケイ、少しボーカルやらせろ」

軽く重み。温かさ。
突然降った低い声に少し驚いた。

ケイはくすっと笑う。

「良いよ、なんて歌やりたいの?」

「──レイラ」

シイは私と視線を合わせて微笑んだ。
いっそう、大きく心臓が鳴った。



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