エングラム



「そういえば!ビルで練習中ゴキブリ出て大騒ぎしたよねぇー」

ケイがその時のことを嬉しそうに話し出す。
私もよく覚えている。

「そうそう、ゴキブリ出たあ、ってシランが気付いて」

「私が潰したんですよね」

無慈悲な笑顔をにっこりと浮かべながら、靴で何度もゴキブリを踏んだユウ。

命に対する蹂躙ですよさすがに怖い止めてお願いです、と止めようとした私に、シイが諦めろと言ったのだ。

「ユウ、ゴキブリ可哀相だったよ本当」

ケイが花束から、花びらをプチッと一枚千切りながら言った。

「説得力ないなおい!」

素早いツッコミでシイがずり落ちた眼鏡を持ち上げる。


「ねぇ覚えてる?」

その言葉で、昔話に花を咲かせる。

「弁当事件とか懐かしいよな」

「あー、ありましたね!」

思い出して笑った私たちに、表情を崩さないままケイが告げる。

「僕にとっての最高の味はあれなのぉー」

ケイは続ける。

「シイだってかなりダメージ受けてたじゃん」



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