エングラム
「良いにおーいっ、ありがとうシイ」
ケイは花束に顔を埋め、きらきらの笑顔を見せる。
カーテンを通った夏の柔らかい日差しに、亜麻色が透ける。
白いシーツの上に、やけに鮮やかな花びらが落ちた。
「どういたしまして」
シイはそう良い、花瓶はとケイに尋ねる。
それが無くてね、とケイは肩を竦めて花束の匂いを再び嗅いだ。
「わざわざ来てくれてありがとうねー」
ケイが私に言う。
「あ、いえ。わざわざって程じゃあ」
気になって、来るのは当たり前だ。
昨日見たあんなに消えそうな姿、心配にもなる。
話題もないので、適当に私は話をふる。
「そういえばケイの名前、昨日始めて知りましたよ」
「言われてみればねぇー、初対面の時ちゃんと名乗ってなかったもんね」
そこから、出会った頃の話になった。
「シイが珍しく外で心読んだんだよね」
ケイは窓際の壁に背を預けるシイに顔を向ける。
「シランはたまたまだ。運命という名の偶然」
「偶然という名の運命、と言った方が良くないですか?」
言いきったシイに、ユウが細かい訂正を入れた。