エングラム



夕飯も食べ入浴も済ませ、学校の支度も終えた。

勉強も宿題以外は当然やる気にならない。

「いつもは何してたっけなあ…」

そう言いながら、自室の隅に置かれたベースを見た。

「………」

何も言わず目を背けた。


はぁ、と息を吐く。


机の上に置かれた花瓶。生けられた花はいつの間にか俯いている。

「…捨てよう」

立ち上がり、花を捨て花瓶を洗った。
何か捨てるのが惜しい気がした。

新聞で包んで丸めた花をごみ箱に入れた時、シイ、という名詞がまた唇から零れた。

自分でそれに気付くのに時間が掛かった。

だが何でもないことだと頭を振った。



空の花瓶を見たら、何故だか悲しくなって。
布団に入って寝ようと決めたのは直ぐだった。



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