エングラム



──暗闇。
布団の中で寝返りをひとつ。


寝る前はこう、ノスタルジーな気持ちになる。

はぁ、と息を吐けば闇に溶けて。
窓の外から車が通る音だけが小さくする。


随分久しぶりに、こんな気持ちになったと思う。


私が知らない私は、枕を濡らすことなどなかっただろう。

──…寂しい。

「…っ…うっ」

──…怖い。

眠れない夜が襲ってきた。

泣かないように口を引き結んだのだけれど、目尻から一筋流れると止まらなかった。

──…唄が…。

何か思い出せそうで、何か分かりそうで。
胸が締め付けられて、頭が痛くなってきた。


もう、やだ、死にたい。

何かを失くしたとグルグル頭の中で回る。

枕が濡れる。


誰かと何かを誓った気がする。
何か大切な約束をしていた気がする。



──…明日へ渡る、闇は深い。



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